あなたと、恋がしたい
◆第1部 Hear me ? ~ちゃんと分かってんの?~
1、体感温度
「結婚式ってやっぱりいいよねぇー」
「ついつい、自分がする時のこと考えちゃうよね」
「白無垢もいいけど色内掛けもいいよね」
「やっぱり純白のウエディングドレスだなぁ。カラードレスも二着」
同僚が羨望の声をあげる中、安井果歩(やすい かほ)は同調しないが、とりあえず頷いてみた。
六月初旬、今日は同僚の結婚式。挙式から披露宴へと移り、ケーキ入刀や余興を過ごし、新郎新婦がテーブルの周り蝋燭を灯してゆくキャンドルリレーを見送って、クライマックスを迎えるところだった。
社会人になり、二十三歳を越えてから、結婚式に出席する回数はどんどん増えてきた。二十五歳を迎えた今年、周りは更に結婚ラッシュ。
ジューンブライドにかこつけて六月は、同期、友人、親戚と三回もあった。きっとマスコミが盛り上げはじめた『いい夫婦の日=十一月二十二日』にも、いっぱいあるんだろうなと先を見越して溜息が出る。
フォーマルな衣装も、いつも同じでは共通する知人の見る目があるから、やむをえず増えていく。結婚は羨ましいけれど、結婚への焦りという観念は果歩にはまだない。それどころか、海外に行ったっきりの四つ年上の彼氏を、長い間待っているのが現状だ。
「で、果歩は、いつまで待つ気」
友人の浜野結衣(はまの ゆい)から言われて、果歩は振り向く。
「え? 何、ハマちゃん」
浜野だからハマちゃん。果歩は彼女のことをそう親しんで呼ぶ。
三つ年上ので彼女は姐御肌で面倒見のよい人物だ。果歩が勤めている広告代理店クリエイティブ・エモーションズにフリーのコピーライターとしてきているのだが、入社以来、一緒に仕事をしているうちに親しくなり、今ではよく相談ごとを聞いてくれる頼もしい存在である。