会いたい
待ち続ける
住宅街の少し外れの古びた空き家に幽霊がでると噂されたのは、夏も終わりに近い頃だった。
「売っちゃいなさい。あんな家、住みもしない、貸しもしないなんて無駄じゃないか。
放っておくから、変な噂が立つんだよ。売っちゃえば、土地だけでもたいしたお金にもなるそうじゃないか」
ことあるごとにそう言っていた母は、ここぞとばかりにまくしたてた。
「何度いえばわかるのよ。あれはまだ私のものじゃないの。名義上預かってるだけなんだから売るつもりはないの。絶対、ないの」
言い返す私は、いつものことなのでほとんど投げ遣りになってしまっていた。
「だいたい、そんなもの預かってたって、あんなさびれた家、使えもしないよ」
「どうでもいいでしょ、そんなこと。例え形だけとはいえ私が預かってるんだから、私の自由よ」
人の噂もなんとやらと言うが、幽霊の噂はかなり広まっていて沈下する様子もなく、結構な問題となっていた。
初めは、私もどうこうするつもりはなかったのだ。
そんなもの、はなから信じてはいないし、大体が何かの見間違い、もしくは勘違いと相場が決まっているのだ。
しかし、新しく入った情報が、私の重い腰を上げさせた。
『空き家にでる幽霊は、若い男である』
家主代理の私はさっそく一人で空き家に出かけ、日暮から夜明けまで、そこで幽霊を待った。
けれど、ただの一度も幽霊は私の前には現れなかった。
正直、私はがっかりした。
別に幽霊が好きだったからでも、若い男が好きだったからでもない。
ここにでるのなら透の幽霊だと思ったからだ。
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