死が二人を分かつまで
出逢い
駅の自動改札を抜けながら、進藤健一は一日の疲れを吐き出すように、深いため息を漏らした。


同時に左腕を上げ、腕時計の文字盤に視線を配る。

現在の時刻は夜の7時半。


今日は比較的早めに帰路につく事ができた。


日々様々な業務に追われ、帰宅が深夜になることも珍しくはなかった。


とはいえ彼の場合、あえて自分から仕事を増やしてきたという向きもなきにしもあらず、だったが。


進藤は新入社員の頃より、女性が押し付けられるような雑務を自分でこなし、他の者が敬遠する仕事も快く引き受け、年を重ねる毎に増えて行く後輩達のフォローも率先して行ってきた。


そのため周りから厚い信頼をよせ、39歳にして経理部長にまで登り詰めたのだった。


彼の勤務する会社は保守的で、女性が課長以上の役職に就くという前例はなく、加えて経理部は男性の割合が少ないので、その中で能力が抜きん出ている進藤が部長に任命されたのは妥当な人事ではあるのだが、それでも、世間一般にはスピード出世と言えるだろう。


本人は特別それを望んでいた訳ではなかったが、しかし、仕事に没頭できる環境というのはとてもありがたかった。


彼を取り巻く人々に対しての、口実として。
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