まだ、恋には届かない。
昼。
「ありがとうございました。助かりました」

亜紀が1人で暮らしているアパートは、市内バスで30分ほどの場所にある。
駅でバスを乗り継がなければならないため、時間がかかった。
バスのような遠回りルートでなければ、車なら20分もかからずに着く。
自転車で通うことも考えたが、残業も多い仕事で帰宅が夜中になることも珍しくない。
会社周辺や自宅周辺は、夜中ともなると人通りもなくなる場所なので、結局、バス通勤を選ぶことにした。

バスがなくなったときは、タクシーや、野田が一緒のときは、野田の通勤路に亜紀の家があるので送ってもらっている。
車通勤も考えたが、維持費など車にかかる費用を考えると、タクシーを使ったほうが安上がりだいう計算になり、バスでいいと割り切った。

駅からは離れているが、近くに大型スーパーもあり、生活に困ることはなかった。

1階と2階で外壁の色が違うツートンカラーのアパートは、1LDK プラス ロフト付きで、東側に大きめな出窓のある角部屋という条件が気に入って、入居を決めた物件だった。

明日から階段の上り下りがちょっと大変そうと、町田の手を借りながら2階にある部屋の前まで来て、亜紀はさてどうしようと考えんでしまった。


お茶ぐらい勧めるべきかな?
まあ、掃除くらいはしてあるけど。


数回の瞬きをする時間、考えて、とりあえず「お茶でも」と、亜紀は口にしてみた。

「あー。いいよ。会社戻るよ。今日はゆっくり休めって」

あっさりと町田はそう言って「無理するなよ」と言葉を続けて、じゃあなと踵を返し、歩き出した。
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