まだ、恋には届かない。
夜。
午前中の不測の事態に、今日の予定は狂わされた町田が帰宅したのは、もう時計の針が午前を知らせている時刻だった。

電気を点けて、真っ暗な部屋を明るくする。

ダイニングにあるテーブルには、食事の用意がされていた。


美幸。
来ていたんだ。


付き合い始めて2年になる、彼女のことを町田は思い浮かべた。

木下美幸(きのしたみゆき)は、大学の同級生に紹介された女性だった。

笑顔がかわいいと言うのが、最初の印象だ。
一人娘という事で、甘やかされて育ってきたせいか、泣き虫で甘えたがりな性格ではあったが、困らせられるほどの我が儘などは言われたことはなかった。

概ね、交際は順調だった。

美幸の父親は、隣市で小さな設計事務所を構えていた。

最近になって家に招かれるようになり、それとなく、結婚を前提にしての将来の話などを、父親から切りだされるようになってきた。


-大きな会社の仕事も楽しいだろうけど、小さいところは小さいところなりの、楽しみがあるんだよ


そう町田に告げる顔は、娘と結婚したら会社を継いでもらえないかと、町田にそう尋ねていた。


そろそろ。
先のこと、考えないとな。


そんなことを考えて、ため息が出た。
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