アジアン・プリンス
(6)プリンスの誓い
「殿下、先ほどは失礼しました。あの……見たことは全部忘れて下さい。そうでないと、私」

「いいだろう。君が我が国に来てくれるなら、見なかったことにしよう」

「そんなっ! 殿下っ!」


身を乗り出した時、リズムが崩れた。

その瞬間、ティナはヒールで皇太子の足を踏んでしまう。一瞬で頭から血の気が引いた。それはティナだけでなく、周囲の人間も同様だ。


「大丈夫。君は軽いから、問題はない」


皇太子は、固まるティナのウエストを支えると軽く持ち上げ、足を除けた。そのまま自然な動作でティナを下ろす。そして、何ごともなかったかのように、再び踊り始めた。


「重ね重ね申し訳ありません……」


もう、顔を見る勇気もない。ティナは俯いたまま謝罪した。


「1度訪れても無駄にはならない国だと思うのだが……どうであろう」


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