アジアン・プリンス
(8)戦争と平和
ジョン・F・ケネディー国際空港を飛び立った王室専用機は、約7300キロ西に位置するアズウォルド王国を目指した。

日本の首都、東京からは約3900キロで5時間弱。ハワイからなら約2000キロで2時間半もあれば、太平洋の真ん中に浮かぶ王国に到着する。


空飛ぶスウィートルーム、といったところだろうか。

そこは、飛んでいることすら忘れるような、快適な空間だ。バカンスなど長く忘れていたティナにとって、妹の「アズウォルドは楽園」という言葉は、わずかな緊張と思いがけない興奮を誘うものであった。

もちろんそれには、皇太子の存在も欠かせなかったが。


ティナは、あれから何度も自分に言い聞かせた。


――いいわねクリスティーナ、あなたは国王の妃に求められてるのよ! 皇太子殿下の妃になれるわけじゃないのよ! と。


その努力が効を奏しているかどうか、今ひとつ自信がない。

搭乗して何度目かのため息を吐いた時だ。


「随分、緊張しているようだね。少し話そうか?」


不意に皇太子から声を掛けられた。

お付きの方たちはドアの向こうで待機していて、5人は座れそうなソファに、ティナはひとりで座っていた。

レイ皇太子はティナの正面、ひとり掛け用のソファに腰を下ろしている。


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