愛★ヴォイス
【彼】ノカクゴ
そうこうしている内に、すっかり行き先を聞きそびれてしまった。

車はネオンの海をすいすいと横切ってゆく。


隣の部長はこの時間を睡眠に充てると決め込んでいたようで、早々に寝る体制に入ってしまった。

自分を呼び出した当人に、その呼出の理由を聞けないままでは、なんとも落ち着かない。


どうしたものかと思いあぐねていると、


「今日は僕が麻里さんにお願いして、真下さんを連れてきてもらったんですよ」


三田君が思いもよらぬことを口にした。


「ほら、残念ながら、僕は真下さんと連絡先交換してもらえませんでしたから」


そう言ってバックミラー越しに、きっちり小悪魔的な笑みを見せてくるあたり、三田君はやはり一筋縄では行かない。

桐原さんと同い年とは聞いているけれど、三田君はその顔立ちと身長とが相まって、制服でも着れば高校生でも十分通用する容姿をしている。

しかし隙のない所作と、言葉の端々に見える鋭さが、彼を只者ではないと感じさせている。

その印象は胸に光る弁護士バッヂが無くても変わらないものだが、バッヂがある意味彼の聡明さを後押ししているとも言えた。




「桐原から聞きました、『真下さんに発破かけられた』って」

「あ、あれは――……素人のくせに余計な口挟んじゃって……」


(桐原さん、あの時のこと、三田君に話したりしてるんだ)


思わずしどろもどろにうつむいてしまう。
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