愛を教えて ―背徳の秘書―
(10)プロポーズ未満
雪音は深くため息をついた。


(だめだ……私、何やってるんだろ)


昨日、皐月の入院でいただいたお見舞いのお礼状を印刷に出した。


卓巳の祖母で藤原邸の女主人皐月は、心筋梗塞の発作で三ヶ月以上入院が続いている。

しかしようやく、来月退院が決まった。そのため、邸内に本格的な医療機器を設置し、ドクターとナースを常駐させるという。

妊娠中の万里子のためでもあり、卓巳らしい思い切りのよさだった。


その退院の案内も兼ねてのお礼状だ。

皐月は会長だったので、会社関係のものは卓巳の秘書が用意する。だが、身内に送るのは万里子の役目だった。


裏面は印刷だが、宛名書きは毛筆で手書き、というのが皐月のやり方だ。

万里子もそれを素直に踏襲している。


ここ数年、身内の数に大きな変動はない。印刷の枚数は多めに見積もって五十枚ほど。それを雪音は、なんと五百枚も発注してしまったのだ。

だが、印刷会社とも長い付き合いである。

今回、その数の多さに驚き、わざわざ連絡してくれたのだった。


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