愛を教えて ―背徳の秘書―
(14)愛に堕ちる覚悟
――中澤朝美


そう書かれたネームプレートの前で雪音は深呼吸した。


朝美が運ばれた病院は、偶然にも藤原グループの会長、皐月の入院する病院だった。ちなみに、万里子も同じ病院の産婦人科で定期健診を受けている。


朝美の事故を聞き、好悪の情は別にして万里子は彼女を気遣った。


『中澤さんの実家は東京じゃなかったはずよ。落ち着いたらご自分で親しい友人に頼むでしょうけど……。とりあえず、入院の準備はしてあげたほうがいいんじゃないかしら?』


そんなことを口にして、自分で動こうとしたのだ。

雪音は、会社の方に任せては……と言ったが、宗にしては気の利かないことに、男性社員を寄越していた。


雪音が傍にいるのに、社長夫人である万里子を使う訳にはいかない。

一緒に行くと言う万里子を皐月の部屋に残し、雪音はひとりで外科の一般病棟までやって来た。


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