ビロードの口づけ
10.獣たちのレース
 あれからジンはあまり意地悪な事を言わなくなった。
 それというのもクルミが警戒して、なるべく二人きりにならないようにしていたからだ。

 そのため泣かされるような事もない。
 だからあの、まぶたに落とされる優しいキスもあれ以来受けていない。

 そしてそれはジンにとっての自分は、いじめて楽しむ対象か、極上の女としての価値しかないのだという事を物語っている。

 意地悪されるのは嫌だけど、こんな風に全く無関心なのは少し寂しい。
 我ながら矛盾しているとクルミは思った。
 嫌いならかまわないでと自分で言っておきながら。

 いつもは自室で過ごしていた時間の大半を、今はリビングで過ごしている。
 ジンは黙ってクルミについて回り、今はリビングの隅に立ってこちらを見つめていた。

 ジンの視線を気にしつつも、クルミはソファに座り持ってきた本に視線を落とした。

 そのまま静かな時間が流れる。
 時々開かれた窓から、庭にやって来た小鳥のさえずりが聞こえてきた。
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