ビロードの口づけ
13.密約
 灯りを消して横になったものの、昼間のジンの様子が気になって、クルミは眠れずにいた。

 月のない夜。
 部屋の中は一層暗く、外にいるジンの影も見えない。

 五年前の獣と言葉を交わした記憶はない。
 けれどジンは、それを気にしていた。

 ジンは何か心当たりがあるのかもしれない。
 少しでも教えてもらえれば、忘れている何かを思い出すかもしれない。

 クルミはベッドから跳ね起き、肩掛けを羽織って窓へ向かった。
 カーテンを少し引いて外を窺う。
 以前見た時のように、ジンが背中を向けて立っていた。

 そっと窓を開くとジンが振り返った。


「何か用か?」
「訊きたいことがあるんです」
「明日にしろ。月のない夜は獣が多く徘徊する。あんたの強すぎる香りは標的になる。窓を閉めろ」

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