やわらかな檻
二人の愚かな子供たちへ
 やけに息苦しかったので、暖房は切ってしまった。

 すると庭に面した襖から遮断しきれなかった冷気が忍び込んでくるのがよく分かる。

 暖かな和室を侵食していくそれは、やがて反対側にある文机で宿題をしていた僕まで辿り着いて、背中をひやりと撫で上げた。

 寒い。膝掛けを引き寄せる。

 かじかんで動かなくなり始めた右手に息を吹きかけて、ふと時計を見るとようやく午後一時になったところだった。

 ……そろそろ、また点けないと。
 思考が鮮明になっていく。

 また抹茶ミルクを飲みたいと言いだすのだろうか。今日は何の本を薦めようか。それともボードゲームで遊ぶ? そういえばこの前遊んだオセロを気に入っていたっけ。

 色々と考えを巡らせて、違う、と頭を横に振った。

 ホスト役で、例えそうでなくても年上の自分が楽しんで、彼女の来訪を心待ちにしてどうする。

 彼女がいつ来なくなっても動じないようにしておくのが正解なのに。

 しかしながら体は心より正直なようで、先程よりも確実に呼吸がしやすくなっていた。

 きっと単に暖房を切ったからではないのだろう。

 季節は冬。
 カレンダーがないから分からないけれど、彼女の他愛ないお喋りを聞く限りはクリスマス近く。

 彼女――僕の遊び相手がこの屋敷に通うようになって、半年以上もの時間が過ぎていた。
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