あおぞらカルテ
case01 16歳女性 ブルガダ症候群
循環器内科病棟は、中年から高齢者の患者さんがほとんど。

最近では30代の心筋梗塞患者も増えているっていうけど、その割合としてはやっぱり少数なのかもしれない。

日本の超高齢化社会はすぐそこだ。

大屋先生は無言のまま廊下を歩く。

患者さんたちが時々“先生おはようございます”って言いながらすれ違う。

そんな時には少しだけ口角を上げて会釈するのだ。

物静かにも程がある…。


「先生は…」


いきなり話し始めた大屋先生。

それも声が小さいから、慌てて横まで追いかけて耳を澄ます。


「ブルガダ症候群の治療法を言えますか?」


いきなりのテストかよ!?

でも、国家試験受けたばかりの脳ミソがフル回転で回答する。


「ICD植え込みが基本だと思います」

「そうですね」


ホッと胸をなで下ろした。

ICD、つまり、不整脈が起きた時に電気ショックを落として治療する機械を、身体に埋め込むわけだ。

手術としては簡単。

ほんの数時間もあればできるって習った。


「今回の症例は、女性の患者さんです」

「…ブルガダで女性って珍しくないですか?」

「道重先生、意外とよく勉強してるんですね…。その通り、約9割が男性に発症すると言われています」


“意外と”ってどういう意味だよ…!?

まぁ聞き流しておくか。


「彼女の場合、父親がブルガダ症候群で突然死していることから、遺伝が考えられますね」


大屋先生は相変わらずの無表情で、ある部屋の前で立ち止まった。
< 3 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop