一緒に暮らそう
うまくいかない人生
 手がかじかむのをこらえながら、垣内紗恵は暖簾を店の中へ入れた。もう空はすっかり暗くなり、闇の中に白い雪が舞っている。国道沿いとはいえ辺りは静まり返っている。彼女は売れ残った商品をタッパーに詰めて、自分のキャンパストートに入れた。これが彼女の夕飯となる。

 惣菜屋の仕事はきつい仕事だ。朝早くから材料の仕込みと買い出しをして、仕事帰りの勤め人を相手に夜まで店を開けている。それでも彼女はこの仕事が好きだ。料理を作るのが好きでそれに関わる仕事がしていたいのだ。

 この町の県立高校を出た後、紗恵は東京の調理師専門学校へ進学した。二年間のコースを履修した後調理師免許を取得するつもりだったが、番狂わせが生じた。同棲していた同い年の彼氏が、ギャンブルで多額の借金を背負ってしまった。彼氏とは同じ高校に通っていた時からの付き合いだったが、長身のハンサムで校内の女子生徒に人気のある自慢の彼だった。だが今思えば、彼氏は見掛けだけが取り柄の男だった。彼は自分の借金を返済するために、紗恵をクラブホステスとして働かせた。

 若い女というのは未熟な存在である。紗恵は大好きな彼のために夜の仕事に従事し、次第に学業は疎かになっていき、ついには専門学校をやめるはめになった。金を受け取った彼氏はあっさり紗恵を捨て、同じ専門学校に通っていた新しい女と出ていった。
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