NY恋物語

「と、言うわけで 
今日は私が迎えに来ました」


そう言って車のトランクルームに
私の荷物を放り込み、さっさと
ドライバーズシートに座った彼女は
私が助手席に座りドアを閉めると
前を見つめた端整な横顔はそのままにキーを回しエンジンをかけた。


ゴージャスでインテリジェンスな
クールビューティ。
そんな英語表現が
英語を母国語とするこの国で
通じるかどうかは分からないが
とにかく圧倒されるほどの
美人であるこの女性は
現在秀明のマネージメントを
務めているヨーコ・パーマーさん。


日系クォーターで
お婆様が日本人なのだとか。
秀明から話は聞いていたけど
会うのは初めてだった。
彼女のお父さまが貿易関係の会社を
経営しているせいもあるのか
インターナショナルな感性を持つ
非常に切れ者で日本語も上手い。
その仕事ぶりから人格から秀明が
絶大な信頼を寄せている人だ。


「今日は秀明には…
会えないということでしょうか?」

「そう思ってもらった方がいいわ」


はあ、と思わずため息が漏れた。


昨日のイブは日本大使館主催の
クリスマスパーティがあって
秀明はそれに出席しなければ
ならないと連絡があったのは
数週間前のこと。だから 元々は
昨日こちらへ着く予定だったのを
わざわざ今日の秀明のオフに
変更した。それなのにそのオフに
急遽仕事が入ってしまった、と
この美人マネージャーがいうのだ。
迎えに来られなくなったのは
その為だと。


「今日の日本人会主催のイベントは
10日前に急遽決まったことなの。
まったく!日本人ってどうしてこう
突発的にモノゴトを決めるの?
『ついでだから』ってどういう事?
私には理解できないわ」


でもそれを日本人と
大括りにしてしまうのは
どうかと思う。
時にその『ついで』の為に
返って面倒になることもあるけれど
こういう合理的な考え方は
おそらく万国共通だろう。
ヨーコの個人的意見とはいえ
理解できないというのは
あまりに極端ではないだろうか。


「だいたい、こういう
大きなイベントはもっと事前に
よくプランを練るものよ。
思いつきだけで簡単に
言わないでもらいたいわ!!」


なるほど、そういうことか。
彼女の機嫌が悪いのはそのせいか。


たぶん準備や調整に
秀明のマネージャーである彼女は
とても苦労したのだろう。
そういう思いつき的発言をする輩は
準備や根回しに奔走する
部下の苦労を苦労とも思っていない
組織の上層部にいる偉い人達と
大概 相場は決まっている。


「なにが『瀬名くんほどの選手なら
有名選手にも「顔」が利くのだろう?ぜひキレイどころのプレーヤーなんかも ついでに呼んでもらえるといい』よ!バカにしてるわ!
日本のゲーシャを呼ぶのとワケが違うのよ!!」


あーあ…。そんなバカなことを
冗談でも言う人がまだいるんだ。
そういう人は早く第一線から
引退してもらった方がいい。
国際社会の中での日本の印象が
悪くなる。


「スポーツ選手はトレーニングと同様に試合までの体調管理とそのスケジュール調整が大切なのよ?
三週間後には全豪が控えている大事な時期だというのに 何が
『どうせクリスマス休暇は遊んでいるんだろう?』よ!こんなバカげたプランさえなければとっくにカリフォルニアで最終調整に入ってるハズだったのに!」


とっくにカリフォルニアで
調整のハズ、という言葉に
何となく引っかかりを感じたけれど
彼女の凄まじい剣幕に気圧され私は
ただ黙って聞いている他なかった。


美人が怒るだけでも凄く迫力があるというのに、ブラウンの瞳の
エキゾチックな顔から
こんなに流暢な日本語の怒声が
発せられる違和感が
さらに迫力と威圧感を感じさせて
口を挟む余地もなければ
そんな勇気も出なかった。

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