月の大陸
トリップしちゃいました?!
【クレセント大陸は北と南に広大な森がある
双子の森と呼ばれる
その森はセレ―ナ大陸と同じ土地を持ち聖獣や精霊が住んでいる
森を治め大陸同士の均衡を保つために森には魔塔が置かれ
魔法使いたちが暮らしている

魔法使いの中で最高位の魔法使いを「魔女」と言い
薬学・魔力その全てにおいて抜きんでた力を持つ女性に引き継がれる

北に位置する「アルコルの森」を治める魔女、ミランダ・オ―グ
南に位置する「ミザールの森」を治める魔女、エアリエル・オ―グ

碧の魔女と紅の魔女と呼ばれる双子の魔女が
大陸を揺るがす強大な力に立ち向かう…?】

葵のネタ帳の最初のページに力強く書かれていた文が淡い光を放ち
彼女を包み込んでいった…





「…。」



「…さま…。」


んー?
なんだ?誰かの声がする…

深い眠りに落ちていた葵の耳に女性の声が届く

…あぁ…私寝ちゃったんだ…

ごろんと寝がえりを打った時感じたシーツの質感があまりにスベらかで
葵はふと頭を上げた
眼は閉じられているが寝具の肌触りを確認する
ひんやりとしてつるつるのソレは
つい先日冬用にフワフワの起毛シーツに変えた葵の布団とは明らかに違っていた

「!!??」

それに気が付きガバッと起き上がった葵の目の前には
夕焼け色の髪が印象的なそばかす顔の女性が目を見開いてこちらを凝視している

「え…?あれ?」

急に起き上がったことも手伝って軽いめまいを感じたが
葵はそのまま辺りを見回した

まず自分が寝ているのは天蓋付きの豪奢なベッド
部屋は中世のヨーロッパを思わせる造りで
大きな窓際にはティーテーブルが置かれている

ぐるりと部屋を見回して、もう一度女性と目があった

「…ミランダ様?…大丈夫ですか?」

「…ミランダ?!」

葵はその言葉を聞いてハッとした

ミランダ?今私の事ミランダって言ったよね?
…ってことは…

葵はおもむろに鏡台の前に立った
鏡に映った自分の姿を見て葵は驚愕した


そこに映っていたのは
黒髪に黒眼、団子鼻で小柄な葵ではなく
抜けるような白い肌に
腰まで流れる星を思わせるような輝く銀髪
碧の瞳をした長身でナイスボディの美女だった

「これ…って…ミランダ・オ―グ…?」

鏡に映る自分は先ほどまで夢中になって執筆していた物語の主人公
碧の魔女、ミランダ・オ―グだった

いやいやいや!
ありえない!確かに銀髪に碧い瞳の絶世の美女っていう設定で書いていたけど
本当にこれ…やばいよ!?

明らかに混乱している葵もといミランダに夕焼け色の髪の女性が近づいてくる

「ミランダ様?…やはり何ものかに呪いを受けたのでしょうか?」

女性の言葉にミランダはゆっくり振り返る
「…呪い?」

「はい。
昨夜急にお倒れになられて急に昏睡状態になったのですよ。
覚えていませんか?」

覚えてない、覚えてない!
だって、さっきまで私小説書いて…

そこまで来て葵は思い出した
昨日最後に書いていた場面を

たしか…ミランダは突然攻撃魔法を受けて倒れちゃうんだ
そして命が危なくなる
でも精霊が助けてくれて…

確かそこまで書いていたはず
って言う事は

「…我と契約を結びし精霊よ。我の前にその姿を示せ。」

ミランダが静かに言うと
傍に置かれていたグラスの水が隆起しそのまま龍の形を取った

あぁ…設定のままですよ…
その姿に葵は項垂れる

精霊は「火・水・風・土・光・闇」に宿る意志の持ったもので
姿かたちは様々である
人間嫌いだが気に入った人間がいれば契約を結び
契約を結んだ人間は精霊の力を使役できる
さらに、上位精霊と契約できれば強大な魔力と力を使役できる

葵は頭の中で精霊の設定を思い浮かべながら
確か、ミランダの精霊は水の精霊の王「龍王」だったのを思い出す



落ち込むミランダ(葵)の頬にそっと冷たい感触が走る
顔を上げるとそこには群青色の長髪が眩しいイケメンが立っていた

「急に呼び出しておいて我を無視するとは
そなたは何とつれない事か…?」

澄み切った声が鼓膜を揺らしてミランダは赤面した

カッコいいから龍なんていいよねー
しかも人型を取ったら超イケメンにして
ミランダを好きな設定にしちゃうか!

などとウキウキと考えノートに書き込んだ自分が恨めしい…

「あ、あ、いいえ。
あなたが私を助けてくれたんでしょ?
ありがとう。」

慌てて礼を口にすると
龍王は美しい唇に弧を描きミランダの髪を梳く

「契約主を守るのは当然の事。
それに、我の大切なそなたをみすみす傷つけてなるものか。

もちろん、そなたを攻撃した奴には死より酷い苦を与えたぞ?
…しかし、あのような小物魔法使いの攻撃魔法も防御できんとは
どこか具合でも悪いのか?」

さらに距離を詰める龍王にミランダは身を引いた
既に顔からは火が出そうだ

この設定間違えたかも―!!
盛大に心の中で葵が叫ぶ

「す、少し疲れが出たのかもしれない。
大丈夫、もうすっかり良くなったから。」

「…そうか?
もしものときはいつでも我を呼べ。
もちろん我が倦族もそなたをいつも見守っておるぞ。」

言うだけ言って満足したのか龍王はそのままコップの水に戻って行った

龍王との会話だけでドッと疲れを感じたミランダは
よれよれとベッドに戻った

その姿を心配そうに夕焼け色の髪の女性が見守っている

「また、お休みになますか?
よろしければスープなどお持ちしますが?」

…この人の名前…確か…
この女性も葵のネタ帳にしっかり設定してあった

「ありがとう、エララ。
でも、たぶん今は食べれないからいらないわ。」

ミランダの言葉にエララは少しだけ微笑んだ

やっぱり間違ってなかった
夕焼け色の髪にそばかすの女性はミランダの四番弟子エララ
ってことは他に三人弟子がいるはず

「ねえエララ、私が倒れている間他の弟子たちに異常はなかった?」
ミランダになりきって葵が聞くとエララは首を横に振る

「カリプソ姉さん、ヒマリア姉さん、シコラ姉さん共に変わりないです。
あ、それともうすぐエアリエル様がお見えになるかと思います。」

「エアリエル?!」

エアリエルって確かミランダの双子の妹で…ミランダと同じ魔女で
金髪紅眼の絶世の美女…って設定だったような…

突然声を荒げたミランダに驚きながらも言葉を続けようとしたエララだが
その続きは発せられることはなかった

バン!!
「姉さん!!!?」

いきなりドアが吹き飛んだかと思うと
自分とまったく同じ顔をした金髪紅眼の美女が部屋に飛び込んできた
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