月の大陸
女は度胸です!
ミランダよりも薄い明るい青い眼がまっすぐに彼女を捕えた

「私や王家の為ではなく民の為に力を貸して欲しい。
…頼む。」

次の瞬間ミランダは信じられない光景を見た

一国の王太子が床に片膝をつき騎士の最敬礼を取ったのだ
それに横に控えていたセリクシニも倣う

慌ててミランダは声をかけた
「あ、頭を上げてください。
このような事をされても困ります!」

しかしステファーノは頑として動かない

「ならば承諾してくれるのか?」

そう返されてしまってミランダは困り果てた

皆殺しにされる民を放ってはおけない…
でも私にそんなことできるかわからない
だって普通のOLだったし!!

無責任なことは言えないし…
でも、このままって訳にもいかないし

ふとセリクシニを見るとその真摯な面持ちの中に少し哀しさが見えた

協力はしてあげたいけど…魔法使いは中立の立場で三国のどこにも属さない
って設定をネタ帳に書いたはず
フォーンジョットだけに肩入れするのはどうなの?

「…私たち魔法使いの立場をお忘れですか?
魔法使いは中立です。どこの国にも属さず、最低限しか変わらず森にいます。

その魔法使いの最高位である魔女の私が
ステファーノ様の願いを引き受けることは
フォーンジョット王国と深いかかわりを持つことになります。
そうすれば他2国が黙っているとも思えませんが。」

ミランダの問いにステファーノは一瞬ハッとしたような表情を見せるが
すぐに元の顔に戻った

「その件に関しては、
今回、魔女殿に協力を要請しているのは国の危機を打開するための
最終手段として受け入れてもらえるよう書いた書簡を
父王から他2国の王へ出している。

それで2国は抑えられると踏んでいるがまだ足りないだろか?
もちろん魔女殿の要望は出来るだけ答えるし、望むだけの報酬も用意しよう。」

彼女は元がとても貧しい育ちだった
ミランダとエアリエルは孤児という設定だが葵自身もまた孤児だった
そのせいかお金持ちには多少厳しいところがある

他人にとっては些細な事かもしれないが
さっきの「望むだけの報酬も用意しよう。」という言葉が
ミランダは気に入らなかった

金で力を買えると思っているのなら大間違いよ!
戦争で金もうけをする人間は最低よ
葵は賭けに出た


「では、その報酬に子供の生きた心臓100個を要求したらどうしますか?」

「なに?!」

ミランダの問いに弾かれた様にステファーノは顔を上げた

「殿下は民の為にとおっしゃいました。
ならばその民の命と私の力どちらを選びますか?」

普通なら不敬罪でこの場で切り捨てられてもおかしくはない言葉だった
部屋に一気に緊張が走る

ゆっくりとステファーノが帯剣に手を伸ばすのがわかった
しかしセリクシニは動かずこちらの動きを観察している

私の要求をはねのけて帰るなら協力しよう
このまま不敬罪で私を切り捨てるならそれでもよし
もし私の要求を飲んだら全ての魔力で呪ってやる

ゆらりと1メートルはあろうかという剣の刃が煌めいた
しかし
ミランダの予想と反して剣先はステファーノの胸を狙い定められている

「民は国の力。その力の種を渡すことはできん。
だが、私の心臓ならくれてやる。それで妥協してはもらえないだろうか?」

その瞳に嘘偽りはなかった
そしてセリクシニがゆっくりとステファーノの前に立つ

「ステファーノ様だけでは些か不足かと思いますので
私の心臓もお受け取りください。
これでも少しは魔力を持っておりますので、魔女殿の糧になれるかと。」

セリクシニはふわりと微笑んだ
この状況には似つかわしくない笑みだとも思えたが
彼にはミランダの思いが全て伝わっているようだった

そんな二人を見てミランダはフッと力を抜いた

「私の負けです。
殿下を試す様な真似をしたご無礼をお許しください。」

静かに礼を取る彼女を見てステファーノは剣を納める

「願いは聞いてもらえるか?」

その問いにミランダは一呼吸置いた

何ができるかもどうなるかもわからない
でもなんとかなるでしょ!

私この世界作った人間だし!
女は度胸!!

根拠のない自身を握り締めミランダは頷いた

「碧の魔女ミランダ・オ―グ。この度のお話謹んでお受けいたします。
微力ながら精一杯務めさせていただきます。」

そして微笑んだ

その微笑みは彼女の素の表情で少しの幼く
それでも愛らしいものだった

一瞬セリクシニはその笑みに目を奪われた
ステファーノはミランダの言葉に立ちあがると嬉しそうに彼女の手を握った

「ありがとう!本当に心から感謝する!
決して危険な目には合わせないし、全力で守ると誓おう。」

ステファーノの突然の行動に驚きつつもミランダは笑顔で返した
< 5 / 17 >

この作品をシェア

pagetop