執事ちゃんの恋

第５話

　第５話



　―――　大丈夫。私はヒナタ。どこからどうみてもヒナタ。


　ヒヨリは大きな門構えの前で何度も自分に言い聞かせる。

　しかし、もし自分がヒナタではなく双子の妹であるヒヨリだと文月家の当主が気がついてしまったら……。


　そんな最悪なことばかりが頭を過ぎって、なかなか一歩が踏み出せない。

　実際、文月家の当主である栄西とは一度しか顔を合わせたことがない。

　確か、イギリスに留学する前に一度会っただけ。


　まだ思春期真っ只中だった。

　ヒヨリも、そしてヒナタも成長過程だ。

　あのころのヒナタと、今のヒナタでは身長だって体格だって違う。

　それは、文月家の当主もわかっていることだろう。


　それなら今のヒヨリの男装姿を見ても、自分はヒナタだと言い張れば通じるはず。

　その自信があるからこそ、ヒヨリもそして父である霧島家当主もヒナタの身代わりとしてヒヨリをこの文月家に送り込んだのだから。



　―――　よしっ！　女は度胸だ！



　ふくよかな胸も、今は特注で作らせた補正下着のおかげで体格のよい男の身体に見えるはず。

　髪型もヒナタと同じようにカットして、どこから見ても男。


　一番の救いが、ヒナタもヒヨリもどこか中性的に見えることだろうか。

　そういった噂も、すでに文月家では知れ渡っているはず。

　だからこそ胸をはって文月家に女のヒヨリが乗り込むことができるのだが……やはり怖いものは怖い。

　家を出る前、霧島家当主であり自分の父親が言っていた言葉を思い出す。