ジルとの対話
Chord C♯
ベルリオーズ はオーストリアのピアニストであった。今はチェリストで朝の光が辺りに差し込むと彼は湖に向かい、日々活力をもらっていた。ピアニストとしてベルリオーズがウェーバーを弾いたのはいつのことだったろう。
 

夏が過ぎ、日の出が短くなる。デージーは笑いながら塔に上る。
しかし、デージーはこの宵にキースよろしくジルの屋敷に赴いた。
執事のベルリオーズはデージーをジル宅へ案内しデージーに会釈した。
「ジルはキースを何処へ連れ出したんだね。」
デージーがベルリオーズに尋ねた。
「それは教え兼ねます。」
ベルリオーズは落ち着き払ってはぐらかした。
「こたえてくれないか。」
「お取り引きください。」
ベルリオーズは扉に手をかけて言った。
「執事の身分は、屈辱だろうな。お前なら、ジルよりましな魔法使いになれたのに、それをみすみすピアノと共にジルに捧げるなど、愚の骨頂だ。
あっそうだ。チェリストはどうだね?楽しいかね。

デージーが幾分くだけたように尋ねた。
「楽しいですよ。デージーのためにソナチネを作曲してまして是非ともお聴きに来て下さいね。」
舌の根も渇かぬうちにベルリオーズはにこやかにデージーを招いたので、デージーは高笑いをした。
「それだそれ、このデージーが仕事の出来ぬのは、思いもよらず笑ってしまう。かような執事が、デージーにもほしいものだ。デヴィッドもお前くらいの器量があるが、お前ほど忠実でないもので、どうにかならないかね?」
「私に言われても困りますよ。ではよき日に!」
闊達にベルリオーズはデージーを塔へ帰した。
影の賢人は人知れず咲く花のように鮮やかであった。


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