僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
─Ⅱ─ Lycoris


家に帰るのが嫌になったのは、いつからだったっけ。

よく見知った町並みを見るたびに足が重くなって、心臓がなんだかやけに、嫌に痛くなる。


1階の遮光カーテンの隙間から灯りが点いているのが見えていた。

携帯で時間を確認してみると、まだ、お父さんは帰っていない時間だ。

ドアを開ける前にひとつだけ呼吸をしてノブを回した。

明るい玄関と、その先に続く廊下に、リビングの灯りがもれていた。


「……ただいま」


ぼそりと呟いて、廊下をゆっくりと進む。ミシ、と床が軋んで「星?」とリビングから声が聞こえた。


「帰ったの?」

「うん……ただいま」

「おかえり」


覗くと、ソファに座っていたお母さんが微笑んだ。

だからわたしもどうにかして、笑顔を作って浮かべてみせる。

難しい、笑うのが。

たぶん、家に帰るのが嫌になったのと同じころに、お母さんとお父さんに、自然な笑顔の見せ方が、わからなくなった。


「ごはんあるけど、食べる?」

「ううん、いらない。ごめんね。もうシャワー浴びて寝るから」

「そう……温かくして寝なさいね」

「うん」


おやすみ、と言って、その場を離れた。

視線を逸らす瞬間、お母さんの笑みが少し崩れていたのを見て、ああ、お母さんもわたしに笑いかけるのが難しいのかなって思った。
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