星空を見あげて
星空を見あげて
彼の寝顔が好きだ。

不眠症になってからの私は、彼の静かな寝息と、ときおり震える睫毛、私を求める武骨な指。それらを眺めて、明け方までの時間を過ごす。

「ちょっとだけ、ごめんね」

私は毛布からそっと抜け出し、ヒヤリと冷たい床を音を立てずに歩く。
ドアを静かに閉めて、廊下を進む。
サンダルを履いて玄関を開くと、吹き込んでくる風の冷たさに首を竦めた。

歩くたび、ペタペタと音がする。人気ない夜道、すれ違う人もない。

私は母校へ向かっている。
歩いて十分ほどの小学校。雨のシミが滲む、古いコンクリートの建物。

「こんばんは」

校門の前まで行くと、マフラを巻いた背の高い青年が私に笑いかけた。

「こんばんは」

私も言葉を返して、軽く足踏みする。
マフラにコートを羽織った青年に比べて、私はベッドから出てきたままの格好にカーディガンを羽織っただけの軽装だ。
素足に、彼氏のサンダル。
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