明日へのメモリー


「突然、思いつめた顔してどうした? 聞いてもらいたい話?」

 樹さんは、わたしの不意打ち訪問にびっくりした顔でドアを開けてくれた。

 ここに来るのは、家庭教師になってもらって以来初めてだ。

 白を基調にしたきれいな部屋だった。日当たりのよさそうな南向きの窓辺には、大きなグリーンの鉢植えが置かれている。

 デスクのノートPCは点いたまま。本棚には、経済雑誌から専門書、小説の文庫までが雑多に並んでいた。

 大型液晶テレビとDVDコンポの傍に、くつろげそうなリラックスチェア。背もたれにジャケットとシャツが重ねて引っ掛けてあるのがちょっと笑えた。ここで映画を見たりするのかな。


 薦《すす》められたクッションに座ると、わたしはいつもより一オクターブ高い声で話しかけた。

「シ、シンプルだけど、素敵なお部屋ね」

「そうか? みんな、味気も素っ気もない部屋だって言うけどな」

「そんなことない! それにわたし、男の人のお部屋ってもっと散らかってると思ってたの。もっと色々と……」

「イロイロと、何を想像してたわけ?」

 赤くなったわたしに、彼がにやにやしながら応える。

「そんな奴も多いけどな。みんなじゃないさ」
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