《爆劇落》✪『バランス✪彼のシャツが私の家に置かれた日』
⑥三浦俊也〜小さな親切と礼儀〜


「じゃあ、今度こそさようなら」
そう言って彼女は、ジャケットに袖を通し、コートを羽織るとボタンも閉めず、マフラーとバッグを持ち急いでダイニングから出ようとしていた。

慌てて椅子から立ち上がる俺。

バタバタとスリッパの音を響かせ一旦、寝室へ入る。
ウォールハンガーにかけていたブルゾンを手にし、玄関へ向かう彼女を追って玄関に走った。


え? っと言いたげな顔をしてヒールを履きながら俺を見上げる彼女。

「あの?」

「送る。一応あんたも女だろうし、うちから帰る途中でなんかあったら目覚めが悪くて仕方ないからな」

「は? 目覚めが悪いって何? 全然送らなくて結構です」

また、はっきり断られた。

彼女は、きっぱりしている。きっと男に媚びない女なんだな。媚びるような女なら、そもそも男を殴ったりしないか……。

昨日彼女に殴られた頰を手で触ってみた。まだ結構痛む。じんじんする。女に平手で叩かれたことはあるが、拳で殴られたのは初めてだ。

彼女は俺に対して相当怒ったのだと思う。殴った彼女の手もかなり痛かったはずだ。

バッグを持っている彼女の手を眺めた。とても人を殴りそうに見えない華奢で小さな白い手だった。俺が強く握ったら粉々になりそうなくらい華奢な手に見える。

< 51 / 196 >

この作品をシェア

pagetop