4月の朝に【短編】
4月の夜に

今日は嘘まみれのエイプリルフール。



どうせなら、普段絶対つけない嘘をつこう。



社員旅行。伊豆の温泉。
目の前には、似合ってない浴衣姿のままロビーでうたた寝中の上司。



……23時58分



あと2分の博打。



「部長」



「………」



「愛してる」



「………………」



まあ、反応は無いわな。



ふっと笑って踵を返した。別に起こしてあげる義理なんかない。
いつもしこたま怒られてるんだから、こんぐらいの意趣返しは許されて然り。



「………高橋」



ボソッと聞こえた部長の声にゾクッと背筋が冷えた気がした。



ゆっくりと振り向く。
さっきの姿勢のまま、腕を組んで座った状態で、彼はきつく私を見据えている。



「……今、なんて言った」



「な、なんのことでしょうか」



やばい、これは、やばい。



目を泳がせて、知らないフリを決め込むも、彼は有無も言わせぬ瞳を私に向け続ける。



観念して、私は言った。



「ほんの、冗談だったんです。エイプリルフールだし」



「ほう。で、なんて言った?」



「……あ、ああ愛してるって」



噛み噛みで答えた瞬間、彼は笑った。



「残念だったな。日付はもう、2日だ。言質、取ったからな。……覚悟しとけ」



そう緩く笑った彼に、私は言葉を失った。



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