TABOO~懐剣を外して~
藩校にて
舞は、幼いころから学問が大好きだった。
藩校から帰ってくる兄を屋敷の前で待ち構え、習ったことを教えてくれと付き纏っていた。
それがどういう経緯だか、藩主のお耳に入り、
「舞も藩校へ通わせてやれ。舞に限らず、学びたいものは誰でも通え」
との沙汰があった。
その翌日、舞は、近所の女子や次男・三男たちを誘って藩校へ飛び込んだ。
最初は疎ましがっていた先輩たちも、美人で聡明な舞をすぐに受け入れてくれた。

午前は男子と一緒に論語や算盤を習い、午後は裁縫や三味線などを習って帰宅する。そんな暮らしが、楽しくて仕方なかった。
「毎日よく頑張るな」
「あ、真之介さま!」
「勉強が好きか?」
「はい。舞は将来、藩校の先生になりたいのです!」
「舞先生、か。男どもが大挙しておしかけるだろうな」
真之介は、舞より五才年上だ。
頭脳明晰で眉目秀麗、その上藩校の首席で藩道場では師範代と、文武両道だ。
城下の娘たちの憧れの的であり、もちろん、舞も憧れていた。
しかし、真之介は大老の嫡男、舞は御旗奉行の娘、身分が違う。
こうやって気軽に口が利けるのも、藩校の敷地内だけだ。
「舞、頑張れ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた舞が面をあげた時、真之介の姿はもうそこにはなかった。
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