撮りとめた愛の色
つま先の臙脂色


三.






「せんせーこんちは!」
「ちは!」


「はい、こんちには」



オフィス街の裏道に立つ、近代都市とは真逆とも言える外観のオギハラ教室では、滑らかな彼の声が今日も聞こえていた。





「──日本語は曲線が非常に多い。『は』等のちいさな丸を書くときは筆を少し持ち上げます」



今習字を教えているのは荻原貴明という人でテレビにも良く取り上げられることの多いちょっとした有名人だったりする。



ちなみに身を包んでいる着物は彼にとって普段着であり、なぜあんな格好をしているのかと気にするだけ無駄なことだ。



「半紙につける筆先を少なくすることで線に細さが出るでしょう?」

「せんせー書けたよ!」

「どれ。嗚呼、中々良い字だね」

「へへー、でしょ!」



そんな所にいる、とある私立大学3年目の私は別に彼の弟子とかそういう訳ではなく、ただなんとなくそんなことをしている彼のことを手伝っているだけ。


いる理由を何か挙げるとすれば、居心地の良いこの教室に入り浸っているとでも言えばいいのかもしれない。


勿論それだけではないけれど。



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