銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
狂王 ヴァニス
 とっさの事に、声すら上げられなかった。

 ……しまった! 具合の悪さに気を取られて、周囲の注意を怠った!

 ノームもドレスの胸元から顔を出したまま、ピキーンと固まってしまっている。

 あたしの代わりにアグアさんの気配を読み取るのに集中していて、この人物に気付かなかったらしい。

 まずいまずい~! 城の中って精霊立ち入り禁止よね!? どうやって誤魔化そう!?

 ひたすら焦りまくっているあたしたちとは対照的に、目の前の背の高い男性は冷静で、ちっとも驚いていないようだった。

 その男性を見たノームが、驚きの声を上げる。

「ヴァニス王!」

 ……ヴァニス王? 聞いたこと無い名前だけれど。

「誰? ノームの知ってる人?」

「しずくさん、王です!」

「おう? おうって?」

「だから、王なんですってば!」

「お……?」

 ……!!

「狂王!?」

 あたしは、その人物から一歩下がって叫んだ。

 狂王!? 狂王なの!? この人が!?

 一貫して「狂王」としか呼んでなかったから、本名聞いてもピンとこなかった!

 完っ璧にヤバイわ! よりによって最低の人物に遭遇してしまった!

 ヘンリー8世みたいな太ったおじさんを無意識に連想してたから、まさかこんな若い男だなんて思ってもみなかったし!
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