ダイス
人と対峙するのは如何なる時でも覚悟が必要だ。



「……新井に貴方の過去が発覚した経緯は?」


紘奈は目の前にある瞳に微かに怯えた。


そこにあるのは虚無にしか思えなかったのだ。


何もないし、何も感じない。


目の前に座る明良はそんな瞳をしていた。


深水からお前が北見明良から話を聞けと言われたときは特に何も感じなかった。


殺人犯と話すのが初めてというわけではないし、彼を特別な人間だとも思わなかった。


だが、こうして目の前にすると微かな恐怖を感じる。


それは彼が自分とは全く違うからだ。


彼は過去に十人もの人間を惨殺している。


何故それを念頭に置かなかったのか。


理由は簡単だ。


自分の頭の中の大半を占めているのは、今の《ダイス殺人事件》の犯人、新井太一を逮捕することだからだ。


だから、過去に事件を起こした北見明良という存在の恐怖が薄れているのだ。




.
< 222 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop