彼岸桜
第二章

最近買った帯は軽くて締めやすい。春らしい色だしこれを締めていこうかなと取り出した後、帯揚げの引き出しを開けると、あの日彼がくれた淡いさくら色の帯揚げが目に入った。少し迷って、手に取った。冷たいような温かいような絹の感触が柔らかく軽くそれでいて自己主張をするだけの重さを携えて掌(たなごころ)にのった。

秋の個展の後に描いてもらったショールは、それを見るたびに彼を思い出すので、冬の間は少し厚めのショールをするのだし、と箪笥にしまっておいたけれど、ここ暫らく彼を思い出さなかったので、何となくほっとしたような気持ちになって明日はそのショールをしていこうかしら、と思う。

桜色の帯揚げを載せた帯の横に綺麗に畳んだショールを置いた。小鳥のような、動物のような二つの立ち姿は薄暗い納戸の明かり取りの窓から入る光の中にまるでお地蔵さんのようにも見えた。


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