優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
運命の人【謙信×桃】
「ん………眠たい……」


鳥のさえずりの声で目覚めた桃は、早朝目を擦りながらむくりと起き上がって隣を見た。


昨晩は…謙信と一緒に寝ていたはずだが、すでに床は冷たくなっていたのでひとりで毘沙門堂で祈りを捧げているはずだ。

完全に覚醒した桃はすぐさま浴衣を脱ぎ捨ててどたばた音を立てながらセーラー服に着替える。


「桃姫、お起きですか?今日も朝かららんにんぐとやらに?拙者もお供を…」


「うん、その前に謙信さんと三成さんと毘沙門天さんに挨拶しなきゃっ」


普通に返ってきた桃の返事で、襖の奥に控えていた幸村が中に入ろうと襖を開けると――桃はまだ着替え中で、スカートは履いているものの上半身はブラだけ。


「あっ、ちょ、ちょっと待って!」


「!も、申し訳ありませぬ!出直して参ります!」


「私すぐ毘沙門堂に行くから後で一緒に走りに行こうね!」


慌てふためいて着替えた桃は、謙信の部屋を飛び出して挨拶をしてくる家臣たちに笑顔を向けながら毘沙門堂に駆け込んだ。

ただしそこは静寂の世界。

毘沙門天と謙信が対話をする神聖なお堂で、蝋の溶ける匂いと謙信の乳香が桃を違う世界へと誘い、お堂の1番後ろで正座をして難しい印を結んだ。


瞳を閉じると、この戦国時代へと自分を誘った毘沙門天の大きな姿が何故か目に浮かぶ。

謙信の元へと誘われるまでの間に三成と出会い――何故かとんでもないことになってしまったが、それも今となっては過去のこととして受け止めなければならない。


「もう起きたの?まだ寝ていていいのに」


「あ、謙信さんおはよ。でもランニングは日課だから後で幸村さんと走って来るね。あ、三成さんにも声かけよっと。謙信さんは?」


「私?私はそういうの面倒だから遠慮しておくよ。桃は私の正室になっても何も変わらないねえ。ああでも…少し髪が伸びて女子らしくなったかな」


毘沙門天との対話を終えた謙信が桃の隣に腰かけて肩半ばまで伸びた髪をさらりと長い指で掬った。


女性と見紛うほどの中性的な美貌は相変わらず美しく、そんな謙信に見つめられておたおたしてしまった桃はだんだん顔が近付いてくる謙信の肩を押して離れさせようとするが、壁際まで追い詰められてしまう。


「謙信さんって…外見に騙されがちだけどほんとに肉食…」


「それはいい意味なんでしょ?ね、桃…」


弱点の耳にふうっと息を吹きかけられてつい声が上がる桃を抱きしめた謙信は、三成の邪魔が入らない毘沙門堂で桃との熱い口づけを交わした。

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