かえるのおじさま
偽婚姻
もぎりの少年は座長の息子だ。当然に両生類頭なのだが、客群れの中にギャロの姿を認めると、小さな丸い目をきょろきょろと泳がせた。

「どうしたよ」

「だって、ちょうどあんたの女房の舞台が始まるからさ」

「暇つぶしに来ただけだ。誰の舞台だって良い。それと、ガキがあんまりませた事を言うな」

「だって、みんな言ってるぜ。あんたはミャーコにイカレちまってるって」

「ませた口をきくなと言っただろう。入るぞ」

入り口をくぐったギャロは、その場の熱気に一瞬戸惑った。

「なんだよ。野郎ばっかじゃねえか」

女、それに子供の客が一人もいないことに、ギャロは不審を感じる。番台の少年を問いただそうにも、次々と入り口をくぐる客の波に押されて、すでにテントの中ほどに押し込められてしまった後だ。

仕方なく手近な席に腰を下ろせば、腹の中が不安でふつふつしている。いくら美也子が若い醜怪種でも、それだけでこれほどの人気が取れるものだろうか。隣の牛頭の親父が酒で赤く淀んだ目でニヤニヤしているのも気に食わない。

美也子が舞台に登場した瞬間、その不安は確信に変わった。

自分が買ってやったドレスがアセチレンランプの光の中にふわふわと揺れる。男たちの好色の視線がそのピンク色の上にざっと注がれた。

(まさか……)

自分だって男なのだから、清廉ぶるつもりは無い。そういう舞台もありだ。ありだが……
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