さよならの魔法
『帰省』
side・ユウキ







久しぶりの実家は、何だか温かい。


いや、気温とかの問題じゃなくて。

俺の住んでいる場所と、温度を比較している訳じゃなくて。


包んでいる空気みたいなものが、春の陽射しみたいなんだ。



ほんわか。

そう、表現するのがちょうどいい。


久しぶりのそのほんわかさが、眠気を余計に誘う。



「ユウキ、そんなとこで寝てたら、風邪引くわよ?」


母さんが、コタツでうたた寝をしていた俺を起こす。


あー、眠い。

すっきりしない頭を無理に覚醒させ、寝ぼけ眼を擦る。



クルリと部屋を見渡せば、寒々としたアパートの部屋はそこにはない。


俺の目に映るのは、もっと見慣れた風景。

幼い頃から記憶に刻まれた、思い出深い部屋。





温もりを感じる色合いの、木目調のコタツテーブル。

花柄のカーテンは、完全に母親の趣味。


あーあ、いつまで経っても、中身だけは少女のまんまなんだから。

年を考えろって。


最近ようやく買い換えた液晶テレビが、やたらと浮いて見える。



畳が敷き詰められた、昔ながらの一軒家。


それが、俺の実家。

ど田舎にある、俺が生まれ育った家だ。



高校を卒業するまでの18年間、俺はこの家で過ごした。

今はこの田舎町を離れて、地方都市にある大学に通っている。


もちろん、大学のすぐ近くにアパートを借りて。



だって、ここからじゃ、とてもじゃないけど通えない。


朝4時起きなんて、現実的に考えて無理がある。

さすがに、それは勘弁して欲しいから。





実家を離れて改めて分かったのは、いかに自分が恵まれているかということ。


そうだろ?

1人暮らしなんかしてたら、嫌でも実感する。



こうしてうたた寝していても、誰も起こしてくれない。

メシだって、誰も作ってくれやしない。


全部、自分でやらなきゃならないんだ。



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