もっと傷つけばいい
上京、そして出会い
夢がある訳じゃない。

なりたいものがある訳じゃない。

天下を取りにきた訳じゃない。

躰が溶けるようにまだ暑い9月の最初、あたしは上京した。

「――人多いな…」

さすが、都会。

さすが、東京。

恐ろしいくらいに人が多い。

うっかりしたら、人の波に飲み込まれそうだ。

とりあえず、ショルダーバックとボストンバックを胸に抱える。

この2つのバックの中にはお金――少ないけど、あたしの全財産が入っている。

こんなに人が多いと、何をやっても気づかれないだろうな。
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