本音は君が寝てから

 厨房の奥のほうからはこってりと煮込まれたドミグラスソースの香り。手前のフライパンからは香ばしいステーキ肉の香り。ホテルのレストランの厨房は、色んな匂いが混ざっていて鼻が馬鹿になりそうだ。


「よし、これをお出しして」

「はい」


最終チェックをして、次々と皿を運ばせる。


「香坂シェフ、デザートのチェックお願いします」

「うん。見せて」


抹茶のムースの上にカリカリのクレープ生地を巻いてスティック状にしたものととクリームで飾りつけられた本日のスイーツ。

まあまあ上出来だ。
若干クレープ生地の巻き方がへたくそだが許容範囲だろう。

今デザート担当をしているのは牧田だ。

ここに来た当初に比べたら格段に盛り付けも上手になったが、それでもやっぱりあいつには敵わないな、と思う。

ここから数分歩いた住宅街に程近いところで喫茶店『ショコラ』を経営している後輩パティシエ相本隆二。

俺の中で、未だにコイツを越すパティシエは現れていない。

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