とある神官の話
6 問題と真実の幕開け



  * * * 



 武器になるものだったらある程度は使いこなせる部族がいる。戦闘能力が高く、昔は傭兵として名を馳せた者も排出している、そんな彼らは――――リムエルという者達である。
 彼らは流浪の民とも呼ばれ、一部はあちこちに移動して歩くものもいるが、ここ、森に器用に作られた街に定住しているのも少なくはない。
 リムエルには耳に特徴を持つ。形が他のヒトと違うのだ。尖っていたり、上と耳たぶ辺りが発達し、例えるなら蝶の片羽のような形をイメージしてもらえるとわかりやすい。しかしそれらは例えであって、皆がみなばらばらである。

 森を巻き込むように作られた街は、元からリムエルの土地である。が、現在はあのフィストラ聖国、教皇領となっている。
 森を巻き込むような街であるバルニエルは些か変わった街ともいえよう。
 そんな街の建物の一室。品の良い家具が置かれ、椅子には一人の男が腰を下ろしていた。



「……」



 神官の略装をした男は、バルニエルの森のような深緑の髪を持っていた。机にはまだ処理しなければならない書類があるが、それよりも先に少し前に届いた手紙を見つめる。
 やや癖のある字で綴られた手紙に、ああ元気だろうかと思う。
 宛名は、アーレンス・ロッシュ様。この高位神官の名であり、送り主は―――シエナ・フィンデルである。

 ―――――私がもし死んだ時に。

 そうやって遺言した男の友人は、こちらが感心してしまうほど先に手を回していた。なのでアーレンス・ロッシュが彼女の保護者の位置となってもさほど苦労はしなかったのだ。
 とはいっても、だ。
 娘のように思っている彼女が今、大変なのを知っていた「―――」



「あの」

「気にせず続けろ」





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