偽りの愛は深緑に染まる
尾けられてる?

 日曜日の朝。ホテルで、光流さんの腕の中で目が覚める。一年間繰り返してきた、週末の過ごし方。

 着替えてチェックアウト。今週もこれで終わりだ。

 光流さんとは駅でお別れになる。

 取り敢えず帰ったら寝ようか……。

 電車に乗り、席に座ってぼーっと流れていく景色を見る。

 次の駅で、背の高い男が乗ってきた。メガネにマスクにニット帽。何だかあやしく見えてしまう。

 男は梨沙の隣に座り、スマホをいじりだした。

 何かがひっかかった。この既視感は何だろう。

 じろじろ見ては失礼だと思い、横目でそっと観察する。顔は完全に隠れていてわからない。若い男だと思われるが、どうだろう。

 そのとき、既視感の正体がわかった。スマホのケースだ。赤と黒の渦巻き模様。あれは何処かで見たことが……

 あ……。

 梨沙の背筋がすーっと寒くなった。

 同僚だ。
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