赤い流れ星
side 和彦




「母さん、美幸が働いてる所を見たら帰るんだぞ。」

俺のその言葉に、母さんは食事の手を停めた。




「あんた、一体、何様なの?
やけに偉そうな口をきくのね!」

「そんなつもりはない。
ただ、俺は……」

「何なの!?
私が、美幸の働いてる店で暴れるとでも思ってるの?
それとも、娘は男と同棲してるってぶちまけるとでも!?」

「そんなこと、思ってないさ。
母さん……昨日、何度も話しただろう?
あいつは気の毒な奴なんだぜ。」

「記憶がなくても、探そうと思えば探せるはずよ!」

「言ったじゃないか!
俺達も出来るだけのことはした。
だけど、あいつらしき捜索人はみつからなかったんだ。
家族がいたら、きっと、捜索願を出すだろう?
それが出てないってことは、あいつはきっと天涯孤独の身なんだ。」

「家族に愛想を尽かされてて、探してもらえないだけかもしれないじゃない。」

「母さん!」



やっぱり、昨夜のままだと俺は失望した。
俺は、昨夜、母さんに思いつくままの作り話を聞かせた。
シュウとは数年前に好きな音楽のことがきっかけで、SNSで知り合ったと言った。
当時のシュウは、すでに記憶をなくしていて、たまたま町で知り合った男の所に居候させてもらっていたことにした。
こういうことを言うと、母さんはシュウをいい加減な奴だと思うだろうと思ったけど、そうでも言わなけりゃ後の話が不自然になるから。
その友人が、近々結婚することになり、家に居辛いという話を聞いて、俺はシュウに美幸のいる家を紹介した。
だから、当然、俺もシュウが来る前に日本に帰るつもりだったが、急な都合で帰るのが遅くなり、その頃にはシュウとはすでに連絡が着かなくなってたため、美幸の家に行ってしまったということにした。
美幸にもシュウのことを伝え、母さん達には内緒にしておくように言い付けておいたが、一緒に暮らすうちにシュウと美幸はお互いのことを好きになったらしいと伝えた。

母さんがその話を信じたかどうかはわからなかったが、全く信じていないというわけではないと思う。
もちろん、シュウが働かないのは身元を証明するものがないからだということも、調べた限り、犯罪絡みの人物ではないということも話したが、それでもやはりシュウと美幸が何ヶ月も二人っきりでいたということに特に不快感を感じているようだった。
二人はプラトニックな関係だと何度言っても、母さんはそれを信じる事はなく、妹が一人で住んでる所によくもそんな得体の知れない男を行かせたなと俺は酷く叱られた。
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