赤い流れ星
side ひかり




「か、母さん…!」

そこには不自然な程、にこやかに微笑む母さんがいた。
たった今、兄さんから、母さんは帰ったと聞いた所だったので、私は驚きのあまり電話を切ってしまったけど、却ってそれも良かったかもしれない。
母さんは私が電話をしてたことを気付いていなさそうだったから。



「青木さん、ゆっくりしておいで。」

「あ、ありがとうございます。」

店長さんの手前、私はそう言って愛想笑いを浮かべ、母さんと一緒に店の外へ出た。



「か、母さん、兄さんは一緒じゃないの?」

わざとらしいとは思いつつ、私は母さんにそんなことを訊ねてみた。
兄さんからはまだ何も聞いていないというふりをするためだ。




「和彦なら帰ったわ。」

母さんが答えたのはそれだけだった。



(嘘ばっかり……)



「そう…じゃ、どこ行く?」

「そうね…ゆっくり出来るところが良いわね。」


母さんはそう言いながら、食堂街をゆっくりと歩いて見て周り、最終的に選んだのは、私がまだ一度も入ったことがないちょっと高級な和食の店。
高いせいかお客もまばらで、店内はとても静かだった。
BGMも和風の静かな曲だから、母さんと二人でいると酷く気詰まりな雰囲気になりそうな気がした。



「こんな高い店じゃなくて良かったのに……」

「あんたと落ちついて話がしたかったから、静かな所が良かったのよ。」




やっぱり来たか……
母さんがわざわざ一人で店に来るなんて、おかしいと思ったんだ。
っていうより、兄さんは母さんが家に帰ったって言ってたから、きっと、母さんは帰る振りをして兄さんを騙したんだと思う。
兄さんもけっこう用心深いのに、その兄さんを騙してまで残ったのはもちろん私と二人っきりになるためだろう。
でも、今の私はもう子供じゃないから、母さんが無理に連れ戻そうとしたって絶対に抵抗出来る。
母さんもそのくらいのことはわかるはずだから、やっぱり話し合いでなんとかしようということか……



「あんたはわかってないと思うけど……」

注文をすませお茶を一杯すすると、母さんが唐突に話を切り出した。




「あの男はあんたを利用してるだけなのよ。
あんたにはこれっぱかしの愛情もないの。」

それは、予想していた言葉ではあった。
でも、それでもやっぱりその言葉はとても腹が立つもので……
母さんの馬鹿。
シュウのことを何も知らないくせに……
シュウはそんな人じゃないのに……
私はじわじわと怒りがこみあげるのを感じた。
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