偽装結婚の行方
第七章 浮気と本気
「で、その子の本当のお父さんは誰なんだ?」


阿部はそう聞いて来た。もちろん俺の予想通りだが。


「それは秘密だ。俺も知らない。どこかの御曹司らしい」

「御曹司!?」

「ああ。だよね?」


尚美に促すと、彼女はコクっと頷いた。


「相手の親がわからず屋で、息子と尚美の結婚をなかなか承諾しないらしい。その内に希ちゃんを妊娠してしまい、尚美は仕方なく未婚のまま希ちゃんを産んだのさ。

そろそろ相手の親も承諾しそうな雰囲気だが、同時に尚美の父親の追求が激しくなってきた。もう、カンカンさ。もし尚美の父親が相手の家に乗り込んだりしたら、まとまる話もまとまらないんじゃないか。尚美はそう心配して、苦し紛れに俺の名前を言ったわけよ」


俺はスラスラと作り話を言い、阿部の反応を窺った。我ながら上手く言えたと思うが、阿部は信じてくれたろうか……


「ふーん、なるほどね」


よし。阿部は俺の作り話を信じたらしい。


「でもさ、なんでおまえなんだよ? おまえ達、口を利いた事もないんだろ?」


来た!
ここが肝心なんだよなあ。打ち合わせた通りの嘘を言わなきゃだが、自分で言うのは恥ずかし過ぎるなあ。


「それはだな、俺が言うのは恥ずかしいんだが……」


俺が言い淀んでいると、


「私が言います」


意外な事に、尚美が口を開いた。

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