闇に響く籠の歌
第1章
その日もいつもと同じ爽やかな朝だった。

月影高校3年5組の教室。そこの一番後ろの窓際という絶好のポジションに陣取っている圭介はそう思っていた。

まだ、始業のチャイムが鳴る気配はない。だとすれば、もう一眠りできる。そう思いながら大きなあくびと一緒に机に突っ伏した時、彼の耳には聞きたくない音が飛び込んできた。

あれは無視。無視、無視。そうするに限る。

そんな失礼極まりないことを考えている圭介。だが、彼のそんな思惑を吹き飛ばすかのような容赦のない攻撃が仕掛けられる。


「圭介! あれほど、先に行くなって言ったのに! か弱い女、置いていくなんて信じられない! あんたには血も涙もないってことね!」


教室の扉が荒々しく開けられる。それと同時に圭介の元へと一目散に走ってくる足音。もっとも、それらを圭介は完全に無視している。だが、相手はそんな彼の背中にズシリとのしかかってきた。こうなれば、売り言葉に買い言葉が妥当だろう。そう思う圭介の口からも遠慮のない言葉が吐き出される。


「遥、重いだろう。お前、また太ったんじゃないのか?」

「圭介。一回、死んでみる? 女に年と体重のことを言うのは禁句だって知らないの?」

「お前のどこが女だって。夕べも一晩中、人の部屋で騒いでいたくせに」


圭介のその声に、騒がしかった教室がシンと静まり返っている。だが、次の瞬間には蜂の巣をつついたようになっていた。


「おい、篠塚。一瀬がお前の嫁なのはいいとして、一晩中ってなんだよ」

「遥、篠塚君といいことしてたの? だったら、いちゃつくのは家だけにしなさいよ!」

「おい、奥寺。誰が、誰の嫁だって? 誤解を招くようなことは言うな。ついでに、コイツは女じゃない!」

「じゃあ、何だって言うんだ。朝っぱらからイチャイチャしやがって。こっちは目のやり場に困るんだ。このリア充め!」

「奥寺、忘れたのか? コイツは筋金入りのオカルトオタクだぞ。こんなヤツに付き合ったら、どうなるかなんて分かるだろうが」

「圭介、オタクって何よ。まるで、私が不健康な趣味を持ってるみたいじゃない。どうして、そんなこと言うのかしら?」

「オタクをオタクと言って何が悪い。夕べのこと忘れたのか? おかげで俺は寝不足なんだ!」

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