今日は、その白い背中に爪をたてる
真白な背中
窓の外、空が白んできた頃に私はふと目を覚ます。
何故だかいつもこの時間に目が覚めてしまうのだ。


ーいや、違う。ー


床に散らばった衣服を拾い上げて身につけながら、私は後ろを振り返る。


そこには、一人で眠るには少々大きすぎるベッドに、惜しげもなく美しい背中を晒して眠る男がいた。


同じ時間に目が覚めてしまうのは、私が意図的に彼に会うことを避けているからに他ならなかった。


シミ一つない、真っ白な背中。


それを見ては私は溜め息をつくのだ。


毎回同じことの繰り返しだ。
同じ時間に目を覚まし、同じ光景、数時間前までこの手で抱きしめていたあの背中を見て、後悔の念に押し潰されそうになる。


そうして化粧も施さない生まれたままの唇で、それにキスを落として逃げるように部屋を出る。


少しだけ心が晴れ晴れとするのは、昨夜もなんとか彼に爪をたてずに済んだということと、唇にキスをしないで逃げのびたこと。


ーー彼の身体に私という存在の残り香を残さないように。


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