朝食にワッフル
朝食にワッフル


もう二十分以上、拓人に抱きしめられている。

拓人のマンションの玄関で。そこはキューブ型の無機質な空間。

「拓人、買ってきたワッフル冷めちゃうよ」

私は焼きたてのワッフルと缶コーヒーが入ったビニール袋を痺れた右手から左手に持ち換えた。

「ごめん。でも離したくない」

拓人の腕は緩む事なく私を抱いている。それに応えるように私の左手からビニール袋が落ちた。

右手が頭の後ろに添えられ、引き寄せられるように何度も唇を重ね合う。浅かったり深かったり……やがて二人の呼吸が結びついた。

「続きは向こうで」

拓人にお姫様抱っこをされ、そのまま寝室へ。

ナチュラルトーンで良質な雰囲気。配置された間接照明にセンスを感じながらベッドへ体を委ねる。

「ねえ、架織、ずっと聞きたかったんだけど、なんでストッキング履いてるの?」

「足を綺麗に見せたいから。それに生足に耐えられるような年齢じゃないもん」

「要らないよ、こんなの」

ベージュのストッキングの上から円を描くように太股を撫でている拓人。

「だって、私、もうアラサーだよ」

「年齢なんてどうでもいい。こんなに綺麗な足、隠してるなんて勿体無い」

そう言われて、胸がぬいぐるみの心臓を強く握られるようにキュンと鳴った。

ヤ、ヤバい……!

あまり好きな言葉じゃないけど、今の状況を表す言葉としては最適だと思う。

太股を這っていく細くて長い指。

黒のタイトスカートの中にその手が入ってくるのをドキドキしながら待っている私。

そんな私に拓人は予想もしていなかった言葉を平然と発した。

「ストッキング、破くよ」

「えっ。ちょ、ちょっと待って! 破くの?」

太股をなぞりながら、コクンと頷く拓人。

舐めたくなるような先の丸い鼻。ビターな茶系の瞳。唇はぷるぷるのオレンジゼリーみたい。いつもなら、うっとり見惚れちゃうけど、今はそんな余裕なんて一秒もない。




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