優しいカレの切ない隠し事
圭介の切ない隠し事


「陽菜ちゃん、この原稿違ってるよ?」

栞里さんに久々に、それも遠慮がちに声をかけられて我に返った。

「あ、すいません…」

栞里さんから受け取った原稿は全く別物で、いかに自分の気がそぞろかが分かる。

それもそのはず。

聖也と会ってケジメをつけるどころか、話はさらにややこしくなってしまったのだから。

あの勢いじゃあ、本当に圭介と話し合いをしかねない。

どうしよう…。

圭介にも話をすると言ったのだから、約束は守らないといけないし。

栞里さんから原稿を受け取った後も、ボーッと考え込んでいた時だった。

「陽菜ちゃん、最近上の空のこと多いよね?わたしのせいかな?」

「え?」

ふと栞里さんから話を振られ、ボーッとした気持ちも吹っ飛ぶ。

「わたし、陽菜ちゃんを傷つけるつもりはなかったんだ。今度、言い訳をさせてもらえれば嬉しいんだけど」

「栞里さん…」

間違いなく、栞里さんは勘付いてる。

それを圭介と共有してるのかは分からないけれど…。

何かを話すことも出来ないまま、すぐに栞里さんに来客の声がかかって、わたしたちの会話はそれで終わった。
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