トレモロホリディ
彼の秘密
ミナト君のお店に行って、数日後のことだった。


私はいつものように21時30分にアパートを出て、ほなみへの道を歩いていた。


私の住むアパートのすぐ前の道は、車一台がやっと通れるくらいの狭い道でなおかつ薄暗い。


人通りも少なくて、あまり良い感じがしない通りなんだ。


昼間は別に何とも思わないのに、夜歩くとものすごく不気味で。


あー怖い怖い。


メイン道路までの道を、私は毎晩早足で歩くのが当たり前になっていた。


その時だった。


「すみません」


誰かに声をかけられた。


街灯の下じゃないから顔は良く見えないけれど、私の身長とさほど変わらない男性が目の前に立っている。


正面から話しかけられて、思わず足を止めた。


「あのー、ここからA駅までにはどうやって行ったらいいんでしょうか?」


あぁ、なぁんだ。


一瞬変な人なのかなって思ったけど、単に道が聞きたかったんだけなんだね。


私はA駅までの道順を丁寧に説明した。


ひと通り説明して「それじゃあ」と立ち去ろうとしたら、なぜかまた道を塞ぐように私の前に立つ男性。


「キミ、毎晩ここを通ってるよね」


「え…?」


言われている意味がわからず、目がパチパチしてしまう。


「この時間に毎晩僕とすれ違ってたんだけど、気づいてた?」


な、何?この人。


そんなの気づくわけないじゃないか。


すれ違う人なんて、こんな暗い中いちいち見てないよ!

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