御主人様のお申し付け通りに
step 3 俺に甘えるな
ここへ引っ越して来て、最初はお爺さんの手前だったからか、永田はやけに親切だった。

荷物を運ぶのも手伝ってくれて、電気系に詳しいからって、テレビや冷蔵庫の配線とかも上手に備え付けてくれた。

お爺さんは、自慢の孫だと誉めていたけど。

それは確かだと思ったのが、今じゃ大きな間違いだった。

頼りになる。

無口だけど、親切。

顔が、カッコいい。

スタイルがいい。

見た目バッチリだとか思っていた。

だけど、中身は本気で最悪なんだって分かった。

私の顔見たら、説教ばっか。

言い方が、ひどすぎる!

結局、自分から敵を作って疎外していく俗に言う陰湿陰険なんだって。

配線だとか、パソコンだとか、ネットだとか、そう言う暗い…暗ーい!事ばかり、専門で、頭ん中に詰め込んで。

満たされない欲求を、私にひどい言葉で、晴らすみたいな。

でも、この家の所有者である永田には、逆らえない。

逆らえば、本当に住む場所を私は無くしてしまうから。

キツイなぁ~。

と、仕事先の休憩中にメールが入る。

別れた旦那からだ。

「今晩、夕食どう?」

…この言葉に釣られて、メールを送り返す。

「うん、いいよ」

今月は引っ越したばかりで、金銭面でかなりシビアにヤバいんだよね。

もう、見栄も何も捨てなければ人間は、食い忍んでいけないからね。

別れたばかりの旦那に、食事をすがる自分の図々しさにも、情けない限り。

夕方に仕事が終わるから、一旦帰宅して、着替えてから行こう。

意外に思うのは、こうやってメールで食事の約束をして、着て行く服を選びながら
約束の時間まで待つ。

それが何だか、凄く新鮮に感じられる事なのだと思った。

夫婦はいつもどこでも、一緒に行動するから、近況報告なんてうざいだけ。

見て、分かんだろ?

って言われれば、それまで。

だから、そのうち会話も続かない。

つまんないって、生活してるうちに思い始めたこと。

それは、私は結婚して夫婦よりも、適度な距離感がある恋人同士の方が、性格的に向いているんだってこと。

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