甘い唇は何を囁くか
第3章 「rencontre」
冷水のシャワーを浴びながら、
シスカは鏡に映る裸の自分を見つめた。

いくら鍛えているといっても、これほどの美しい姿ではなかったはずだ。

全てが―、変わったのかと自覚せざるおえなかった。

氷のように冷たい水を凍えそうだと感じることもなく、
燃え盛る炎を熱いと感じることもない。

腹も空かず、眠たくもならず―。

もう、人間では―、ない。

シスカは固く拳を握り締めて、水滴のついた鏡を殴りつけた。

戻れない。

もう、戻ることはできない…。

俺は―、化け物だ。

口を開くと、鏡の中の見知らぬ男も口を開いた。

両端に鋭い牙が見える。

女の生き血を啜り、そして肉を…精を喰らう。

分かった。

何も恐れるものはない。

俺自身が人間がもっとも恐れるべき存在なのだから―。
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