今日は、その白い背中に爪をたてる
最後の背中
遠くの方から微かに私を呼ぶ声に、ビクリとして立ち止まる。



呼ぶ?



「晶っ!!晶っ!!」



いや違う、息をきらして力の限り叫んでる。


私、この声を知っている。



「アキラ……。」



止まってしまった私をクロウは何故か苦笑して見下ろす。


だめだ、振り向いちゃいけない。


行かなくちゃ。


そう思うのに一度止めてしまった足は動いてくれなくて、真っ白な床を睨んでいるうちに突然肩がひっくり返された。



「っ、晴斗…どうして、」



私を呼んだのはやっぱり、なんてありきたりな言葉が頭に浮かび掻き消す。


息をきらして私の前に立つ晴斗はセットされていたであろう髪をグチャグチャにし、ドラマにでも出てきそうな洒落た服を着ている。



前に晴斗が出てたドラマで、空港に走ってくるシーンあったな。



ゼイゼイと荒く呼吸をして、肩を掴んだまま言葉を紡げない彼のつむじをボンヤリと見つめてそんなことを思った。



「……っはあ、どうして、だって?」



「えっ?」



顔を上げた晴斗は鋭く私を睨む。



「こっちの台詞だ、なんで何も言わずに行こうとするんだよっ!!
どうして俺から逃げるんだ!!」



「な、にそれ……」



見たことない物凄い剣幕に呆然とする。



私が、この日をどんな気持ちで迎えたのか知ってるの?


責められるなんておかしい。



「隠し事はなしだって約束しただろ、それなのに俺に嘘つくの?
俺を好きだと言ったじゃないか、だったら側に……」



信じられないこの男。



「……なのよ。」



「え?」



「あんた、勝手なのよっ!!」



ーパンッ



私の中で、何かが切れた。


気がつくと、呟いた言葉を聞こうと近づいていた晴斗の顔を私はひっ叩いていて。


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