金魚は月夜に照らされて
金魚は月夜に照らされて




「雨、やんだね」


気だるい身体を安物のベッドに沈めて、静かに眠りにつこうとしていた私にそう言って、彼は汗ばんだ髪を細い指でそっと梳いた。


「それって、だから帰れって意味?」


そう返すことのできない私は、重い瞼をこじ開けて、ただ黙って頷いた。ベットの隅に散らかった下着を拾って身につけると、放置されていたその布は温度を手放していて、火照った肌に冷たく滲んだ。

この部屋には何もない。

ベットとソファと小さなローテーブルが部屋の四隅に放置されているだけで、テレビもステレオもない無機質なこの部屋は、確かに彼の部屋であることは確かだけれど、ここで生活をしているのかは知らないし、出来れば知りたくない。

虚しさで溢れ返った部屋の隅から隅をゆっくりと目で辿っていると、視線の端で何かがきらりと光るのが見えた。

クーラーからの肌に優しくない風でカーテンが微かに揺れるたび、きらきらと月の光に反射して輝く。昨日ここへ来たときにはこんなものなかったのにとそちらへ足を進めると、なにどうしたの、なんて気だるい彼の声を無視してカーテンを捲った。
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