私んちの婚約者
嫉妬、婚約者
***
次の日の大学は休講が重なって、私はお休みになって。
朝食の用意をしていると、愁也が部屋から出てきた。

携帯片手に、こんな朝から仕事の電話みたい。


「はい、はい……わかりました」


スーツから伸びる腕。
その腕時計にチラリと目を落とす姿が。


……無駄に格好良い。


なんだこれ、腕時計か紳士服のCMか。
でも目が逸らせなくて、ガン見しながらパンにジャムを塗ったら、ぼとりと私の手の甲にそれがこぼれた。あああ、もったいない!

けれど目の前に降りてきた長い指がそれを掬い取ってーー自分の口に運ぶ。


「っ!!」


な、な、何してんの、このイケメンは!!


ヤバい、愁也菌に感染する。

視覚感染で、伝染性が高くて、不治の病だ。
症状は動悸、息切れ、発熱……。


なんてアホなことを考えていた私を、愁也が手招きした。

「では、お嬢様もお連れします。……はい」


わ、私の話?


慌てて彼の近くに寄ったら、電話口から浮かれたオッサンの声が漏れ聞こえた。

どうやら電話の相手はうちの父の様子。
なんでも社会勉強のために、私を会社に連れて行くよう、愁也に頼んだそう。

「今までそんなこと言われたことないのに」

電話を切ったあとに教えてくれた愁也にそう口を尖らせたら、彼は笑いを堪えてるような顔で、「夫の仕事場くらい、見ておきなさい、だそうで」と、言った。


だれが夫かあぁっ!!

ほんと、脳内オールシーズン花真っ盛りのあの阿呆父め!!


ぶうぶう膨れる私はきっちり食パンとスクランブルエッグ、ウィンナーにサラダにヨーグルト、バナナまで平らげてから支度した。

コーヒー片手にニュースを眺めている彼は、今まで朝食の習慣は無かったらしく最初はあまり食べたがらなかったけど、今は私が作るものはちゃんと食べてくれる。うん、ちょっと評価があがったよ、愁也さん。

「朝は食べないと、頭働かないんだよ?」

「……なら梓の身体はそれ、食べてないと認識してるんだろうね」


……私は頭働いてないってことですか、こんにゃろう!!
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